黄色ブドウ球菌の産生する分泌タンパク質ファミリーStaphylococcal superantigen like(SSL)はアミノ酸配列の異なる14種のメンバーからなり,黄色ブドウ球菌の病態形成,免疫回避に重要な役割を果たしていると考えられているが,それらの多くの機能は明らかにされていない.本研究はSSLファミリーの宿主側の標的分子を同定し,SSLと標的分子相互作用の生化学的解析と生理的意義の解析を行い,SSLの免疫回避における役割を明らかにすること,またSSLの持つ宿主側標的分子に対する特異的阻害作用を応用した,創薬を行うことを目的としている. 最終年度である本年度はヒト母乳とブタ脾臓を材料に,SSL結合セファロースビーズを用いてSSL結合タンパク質の探索を行った.その結果,それぞれSSL8に細胞外マトリクスタンパク質であるテネイシンC(TNC)が,SSL3にパターン認識受容体であるToll like receptor 2(TLR2)が結合することが見いだされた.SSL8はTNCに結合することでTNCと別の細胞外マトリクスタンパク質であるフィブロネクチンとの結合を阻害し,TNC存在下でのケラチノサイトの細胞運動を抑制することが明らかとなった.またSSL3はTLR2に結合することでマクロファージからの各種TLR2リガンド(黄色ブドウ球菌細胞壁成分,リポペプチド,黄色ブドウ球菌死菌)によるサイトカイン産生を抑制した.これらの成果についてBiochemical and Biophysical Research Communications誌およびInfection and Immunity誌に投稿,受理された.
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