昨年度の検討において、脂肪細胞分化を促進する新規遺伝子fad104が、新生児の肺胞上皮II型細胞にも多く存在すること、さらに、fad104を欠損した肺では、肺胞上皮II型細胞の分化・成熟が未熟であり、肺胞上皮II型細胞の分化を制御する転写因子群の発現も減少していることがわかった。これらの結果より、fad104は、未分化な上皮細胞から肺胞上皮II型細胞への分化に大きく寄与する因子であることが明らかになった。さらに、fad104ホモ欠損細胞は、野生型細胞と比較し、脂肪細胞分化が抑制される一方で、骨分化が顕著に促進することから、骨分化制御にも重要であることが示唆された。今年度は、培養や遺伝子導入が比較的容易である株化骨芽細胞や、胎児のカルバリア細胞を用いてfad104が機能する分子メカニズムについて解析を行った。 まず、fad104欠損および野生型マウスの頭蓋より調製したカルバリア細胞に骨分化誘導剤を添加した結果、fad104欠損マウスでは野生型に比べ顕著な骨分化促進が観察された。さらに、fad104欠損マウスの胎児頭蓋を観察すると、野生型マウスと比較して骨化が進んでいることが明らかになった。これらの結果より、生体内において、fad104は肺形成に加えて、骨形成にも重要な役割を担うことが強く示唆された。 そこで次に、アデノウイルスによるfad104過剰発現系を構築し、野生型およびfad104欠損カルバリア細胞にfad104を過剰発現させた。その結果、野生型細胞では骨分化が抑制された。また、fad104欠損細胞にfad104の発現を戻すことによって、fad104欠損により観察された骨分化の顕著な促進作用が消失した。このことから、fad104は骨分化を阻害する機能を有することが示された。さらに、fad104は、骨分化に重要な役割を担うBMP2シグナルを阻害することも明らかにした。BMP2シグナルは、骨分化だけでなく、肺形成にも重要であることから、fad104は肺形成においてもBMP2シグナルを制御する可能性が考えられた。
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