研究課題/領域番号 |
22790081
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
白石 博久 岩手医科大学, 薬学部, 講師 (80393156)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 細胞・組織 / 生体分子 / ストレス / 薬学 / 線虫 |
研究概要 |
過年度において、feeding RNAiによる遺伝子抑制と、飢餓ストレス条件下における非酸性顆粒の崩壊系とを組合せ、腸内非酸性顆粒の飢餓ストレス応答に関与する遺伝子のスクリーニングを効率的に進める為の条件検討を進めて来た。その結果、12-wellプレートを用いたfeeding RNAiでは、個々のRNAiクローンについて、L1(1齢幼虫)から成虫になるまでRNAiを作用させた後に餌の無い培地に移し、その腸内顆粒の多寡を高性能デジタルマイクロスコープで判定することは可能であった。しかしながら、96-wellマルチウェルプレートに保存されたfeeding RNAi用大腸菌ライブラリーを用いて網羅的にスクリーニングを進めるにあたり、RNAi後に虫を飢餓環境に移す操作が律速段階となった。そこで、96-wellプレートの同一ウェル内でRNAiから飢餓処理まで一貫して実施可能な系を検討した。ところが、飢餓処理までに餌が枯渇しない程度のL1個体(5匹程度)を96-wellプレートに均等に分注することが技術的に困難であったことから、RNAiと飢餓条件を組み合わせた網羅的なスクリーニング系の構築は保留とした。一方、当初の申請時に想定していた代替案(通常飼育条件下、つまり栄養状態の良い環境における非酸性顆粒の形成を「環境応答」と捉え、顆粒の形成異常を伴う表現型を示す候補遺伝子をスクリーニングする)に基づきスクリーニングを進めた結果、飢餓状態と同様の顆粒形成異常を伴うRNAi表現型を示す候補遺伝子を同定した。その結果、核酸合成の材料となるペントースの供給や、脂肪酸合成やレドックス制御に関わるNADPHの産生を担うペントースリン酸回路で働く複数の酵素遺伝子のRNAiによって、飢餓状態とよく似た顆粒形成異常が引き起されることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
feeding RNAiによる遺伝子抑制と、飢餓ストレス条件下における非酸性顆粒の崩壊系とを組合せ、腸内非酸性顆粒の飢餓ストレス応答に関与する遺伝子のスクリーニングを網羅的に実施する為の系の構築を試みてきた。しかしながら、網羅的なスクリーニングを可能にするマルチウェルプレートを用いた評価系の構築が困難であったことから、当初の申請時に想定していた代替案(研究実績の概要参照)も並行して進めた結果、飢餓状態と同様の顆粒形成異常を伴うRNAi表現型を示す複数の候補遺伝子を同定した。研究計画の修正は迫られたものの、当初の想定の範囲内であり、本研究の目的である「線虫C. elegansの腸細胞内に形成される非酸性大型顆粒の崩壊を指標にした、環境ストレスの感知応答機構における新規分子基盤の解明」の糸口となりうる候補遺伝子を得られている。
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今後の研究の推進方策 |
研究費交付最終年度にあたる本年度は、候補遺伝子を絞っての探索を進める。また、飢餓状態と同様の顆粒形成異常を伴うRNAi表現型を示す候補遺伝子を同定したので、その関連遺伝子の解析を行う。 (1)腸内非酸性顆粒の飢餓応答に関与する候補遺伝子の探索 線虫データベースWormBaseには、論文発表された知見に加えて、網羅的なスクリーニングで得られた未解析のRNAi表現型や、各遺伝子の発現組織に関する情報が公開されている。従って、これまでに栄養状態を感知することが知られている情報伝達系の蛋白質や、幼虫・成虫の消化管での発現が報告されている因子に焦点を絞り、RNAi処理後の虫を飢餓ストレス条件下にさらすことによって、腸内非酸性顆粒の崩壊・消失が遅延するような候補遺伝子のスクリーニングを行う。 (2)顆粒形成異常を伴うRNAi表現型を示す遺伝子の解析 feeding RNAiと高性能マイクロスコープによる観察を組み合わせて腸内顆粒の形成異常を伴う表現型を示す候補遺伝子の探索を行った結果、ペントースリン酸回路で働く複数の酵素遺伝子のRNAiによって、飢餓状態とよく似た顆粒形成異常が引き起されることを見出している。ペントースリン酸回路は、核酸合成、脂肪酸合成、レドックス制御など、細胞内物質代謝系の様々な側面で機能することから、腸内顆粒の形成・維持に関与する経路や、影響を受ける腸内顆粒のポピュレーションについて更に詳細に解析する。透過型電子顕微鏡を用いた腸細胞内膜系微細構造の解析も行う。
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