本研究では、誘導型でプロスタグランジンE_2合成の末端酵素である、膜結合型プロスタグランジンE_2合成酵素(mPGES-1)の脳虚血障害における役割を、特に好中球で発現する酵素に焦点を当て、中大脳動脈閉塞-再灌流(MCAO)モデルを用いて解析した。まず始めに、MCAOにより梗塞部位に浸潤した好中球におけるmPGES-1の発現を、免疫染色法にて確認した。我々は既に秋田脳研との共同研究にて、脳梗塞患者でのmPGES-1発現が主に好中球で認められるという基礎的結果を得ており、本結果と一致している。次に、抗ミエロペルオキシダーゼ抗体、抗多核球抗体にて好中球を染色し、梗塞部位への浸潤好中球数を、野生型マウスとmPGES-1欠損型マウスとで比較した。その結果、野生型マウスに比べ、mPGES-1欠損型マウスでは有意かつ顕著に浸潤好中球数が減少していた。そこで、チオグリコレート誘導マウス腹腔好中球を採取し、in vitroの系で、好中球におけるmPGES-1の役割の解析を行った。チオグリコレート誘導好中球においてもmPGES-1を発現していた。好中球の遊走活性を検討したところ、野生型マウスに比べmPGES-1欠損型マウスでは、好中球遊走活性が有意に低下していた。本研究より、好中球でのmPGES-1の誘導は脳虚血時の好中球の遊走を活性化し、梗塞部位への好中球浸潤を促進することで、脳虚血障害を増悪する可能性が示唆された。従って、好中球のmPGES-1は脳梗塞治療の有効なターゲットになり得るものと期待される。
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