人工多能性幹細胞(iPS細胞)を用いた研究では、未分化な状態から目的の細胞へと分化させるステップが必要と考えられるが、全ての細胞を単一の細胞群へと分化させる方法は未だに開発されていない。申請者はこれまでに、神経幹細胞において、赤色蛍光タンパク質DsRedと薬剤耐性遺伝子(BSD)の両タンパク質がIRES (internal ribosomal entry site)を介してバイシストロニックに発現するマウスiPS細胞を樹立しており、抗生物質Blasticidin S (BcdS)の添加により、神経幹細胞を純化できることを示唆している。しかしながら、詳細な検討を行った結果、構築した遺伝子から発現するDsRedとBSDの発現量には相関がみとめられなかったため、BSDの発現を赤色蛍光でモニターできるよう改良を加えた。具体的には、DsRedとBSDを自己開裂ペプチド(2Aペプチド)で繋いだ遺伝子を新たに構築し、本遺伝子がゲノムに組み込まれたiPS細胞株を樹立した。その際、piggyBacトランスポゾンを利用した遺伝子導入法を採用したことで、iPS安定発現細胞を、従来の約10倍高い効率で作製できた。樹立したiPS細胞株を神経細胞へと分化誘導させ、DsRedの蛍光とBSDの発現量を経時的に調べた結果、両タンパク質の発現量に相関がみとめられた。本細胞を分化させた後、抗生物質Blasticidin Sを添加し、Nestin抗体を用いた免疫染色を行った結果、Nestin陽性の神経幹細胞が効率よく純化されることを確認した。
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