人工多能性幹細胞(iPS細胞)は、ES細胞を治療に応用する際の拒絶反応や倫理的問題を解消し、再生医療への応用が期待されている。一方で、iPS細胞を分化させると、多くの細胞種が混在するため、目的となるターゲット細胞を純化する過程が必須となる。特に、両生能力が低いことが知られている中枢神経系は、iPS細胞を用いた細胞療法の重要なターゲットと考えられている。そこで、神経幹細胞をターゲット細胞のモデルとし、薬剤耐性遺伝子を神経幹細胞に特異的に発現させ、薬剤選択を利用してターゲット細胞を純化させる方法を考えた。まず、神経幹細胞特異的エンハンサーとして知られているNestinの2番目のイントロン領域をクローニングし、その機能をルシフェラーゼアッセイにより確認した。その結果、本領域に含まれる257bpの領域が、Nestin陽性細胞株におけるエンハンサー機能を担っており、ルシフェラーゼの発現量を約5倍増加させた。さらに、257bpの領域を2つ繋げたタンデム型エンハンサーでは、ルシフェラーゼの遺伝子発現量が約10倍となり、相加的に上昇した。次に、Hsv-tkプロモーターとタンデム型エンハンサーの下流でDsRedとBlasticidin S耐性遺伝子(Bsd)を同時に発現するコンストラクト(N257x2HB2AD)を構築し、piggyBacトランスポゾンを利用してiPS細胞のゲノムへ効率的に導入した。樹立した安定発現株(iPS(N257x2HB2AD)を、神経系へと分化させ、分化14日目から20日目まで、Blasticidin Sを添加したところ、約10%の神経幹細胞の純化が見られた。 以上より、薬剤選択を利用して、分化させたiPS細胞から神経幹細胞を効率的に純化できることが示され、アルツハイマーやパーキンソンなどの中枢神経系の再生医療への応用が期待される。
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