脳内の免疫担当細胞であるミクログリアは、脳虚血や脳傷害時に速やかに活性化され病巣部への蓄積と活性化が認められる。このミクログリアの機能解明は脳疾患の治療およびその創薬研究には必要不可欠である。本研究では、神経細胞変性後の神経新生過程でのミクログリアの役割を明らかにするため、海馬歯状回神経細胞障害後の神経新生における活性化ミクログリア関連因子とそのシグナル経路について解析した。ddY系雄性マウスに海馬歯状回選択的神経毒性を示すトリメチルスズ(TMT)を投与後、ミクログリア活性化抑制薬として知られるミノサイクリンを処置し、歯状回での各種因子の発現変化を解析した。歯状回での活性化ミクログリアが放出するTNFalphaの発現をRT-PCRにより解析したところ、未処置群に比べTMT処置3日目で著しい発現増強が認められた。また、これらの発現増強はミノサイクリン処置により有意に減少した。一方、Iba1陽性細胞の発現を免疫組織化学法により解析したところ、歯状回では未処置群に比べTMT処置群で著明なIba-1陽性細胞数の増加が認められたが、このIba-1陽性細胞数の発現増加はミノサイクリン処置により明らかに減少した。続いて、nestinとNF-kappaB p65について蛍光二重染色を行ったところ、TMT処置3日目の歯状回顆粒細胞層下層でnestin陽性細胞の大部分にNF-kappa B p65の発現が核内に認められた。さらに、ミノサイクリン処置はこのNF-kappa B p65の核内への発現を有意に抑制した。以上の結果から、歯状回障害後の神経新生促進メカニズムにミクログリア活性化によるNF-kappa B p65を介したシグナルが関与することが示唆される。つまり、ミクログリアの制御メカニズム解明が神経変性後の神経新生促進を介した新たな治療法開発の基盤として期待される。
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