一昨年度までの検討結果から、LPSによるSIGIRR/TIR8発現制御においてTLR4シグナルを介したp38MAPキナーゼ活性化が重要であること、更にそのp38MAPキナーゼの活性化が転写因子Sp1のプロモーター上へのリクルートを阻害することによりSIGIRR/TIR8遺伝子発現を抑制することが明らかとなった。そこで本年度は、本研究系におけるSIGIRR/TIR8のTLR4ネガティブレギュレーターとしての機能確認と、慢性呼吸器炎症疾患である嚢胞性線維症(CF)におけるSIGIRR/TIR8発現制御について検討した。過去の知見から、SIGIRR/TIR8はLPS刺激時に多量体を形成することによりTLR4シグナルを抑制することが明らかとなっている。本研究で主に用いた好中球様HL60細胞株は遺伝子導入が極めて困難な細胞株であるため、SIGIRR/TIR8の細胞外領域を認識する中和抗体を用いて多量体形成を阻害し、LPS誘導性のIL-8 mRNAを検出した。その結果、中和抗体前処理群におけるLPS誘導性のIL-8 mRNA発現がコントロール群と比較して有意に上昇したことから、本研究系においても過去の報告同様SIGIRR/TIR8はTLRシグナルのネガティブレギュレーターとして機能することを確認した。 次にCFの気道上皮細胞に着目して検討を行った。正常およびCF気道初代培養上皮細胞、正常化気道上皮細胞株C38およびCF気道上皮細胞株IB3を用いてSIGIRR/TIR8発現量を比較したところ、両ペア共にCF細胞において顕著にSIGIRR/TIR8発現が低下していた。更にp38MAPキナーゼ阻害剤によりその発現低下が回復したことから、本研究で明らかにしたSIGIRR/TIR8発現制御メカニズムがCF細胞におけるSIGIRR/TIR8発現低下に寄与している可能性が示唆された。
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