本研究では、膜トランスポーターABCA1の細胞内ドメイン切断産物による遺伝発現調節機構について、その生理的意義の解明と、詳細なメカニズムの解析を目的とする。本年度は、ABCA1細胞内ドメインの切断に関する阻害剤を用いた検討と、ABCA1細胞内ドメインを発現した細胞における遺伝子の変化について網羅的に解析した。 PMA刺激によりマクロファージ様に分化させたTHP-1細胞を用いて、各種阻害剤でTLR3リガンド依存性のABCA1細胞内ドメインの切断が阻害されるかを調べたところ、TLR3の下流にあるTBK1の阻害剤SU6668で細胞を処理することによって、ABCA1の切断産物の量が減少することが明らかとなった。またセリンプロテアーゼ阻害剤AEBSF、MMP阻害剤GM6001の処理によっても切断産物の減少が観察された。このことは、TLR3の下流のシグナルが動いて、さらにMMPまたはセリンプロテアーゼが、ABCA1の切断に関与している可能性を示唆している。 ABCA1の細胞内ドメインを発現するレンチウイルスを作製し、THP-1細胞、及びヒト初代培養繊維芽細胞に感染させて、細胞内ドメインを強制的に発現する細胞系を構築した。これらの細胞からmRNAを抽出し、それぞれの遺伝子発現レベルの変化について、マイクロアレイにより網羅的に解析し、real-time PCRによりその確認を行った。現在解析中であるが、オントロジー解析の結果から、炎症関連遺伝子の発現がABCA1細胞内ドメインを発現している細胞において減少している傾向が観察された。これはABCA1切断産物が炎症に対して抑制的に働いている可能性を示唆している。
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