生体内の特定の細胞、分子、機能の時空間的な変化を可視化し、画像化する実験手法は1分子イメージング」と呼ばれ、ライフサイエンスの基礎研究のみならず、病態、病因の解明等の医学研究、薬の候補物質の体内動態の解析を通じた創薬研究に大きく貢献している。測定対象と選択的に結合または反応することにより蛍光特性が変化する蛍光プローブは分子イメージングに用いられる有用な化合物である。本研究は、こうした蛍光プローブを開発するにあたり、その蛍光特性を変化する原理として利用できる蛍光物質の会合現象の制御と、受容体蛋白質を測定対象とした際に必須なリガンド分子の開発を基にした研究である。 平成22年度では、蛍光物質の一つであるBodipyの種々の誘導体に対して、水溶液中で疎水性相互作用によって会合し、その蛍光を消光する分子団の探索と、蛍光プローブ開発への応用を行った。Bodipyの誘導体と、ベンゼン、ナフタレンの誘導体を柔軟なリンカーを介して結合させた化合物を種々合成し、その蛍光特性の検討を行った。その結果、ジメチルアミノベンゼン、ナフタレンが、会合の有無により、特定のBodipy誘導体の蛍光を大きく褒化させる分子団であることを見出した。こうした知見を受容体蛋白質の局在の検出するための蛍光プローブへと応用するため、リガンド分子としてビオチンを結合させ、蛍光性リガンド分子とした化合物を合成した。合成した本化合物は、受容体蛋白質であるアビジンと結合した際の蛍光強度の増大を示し、受容体蛋白質の局在の高感度な検出が可能な蛍光プローブとなりえることを示した。また、同様の性質を示す蛍光性リガンド分子を、蛍光物質クマリンを母核としたライブラリーから開発する研究も行った。その結果、核内受容体の一つであるプロゲステロン受容体と結合することにより蛍光強度が増大する分子をライブラリーから見出すことに成功した。
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