近年、疾病治療の目的として、DNAやRNAなどのオリゴ核酸をヒトの体内に投与する「核酸医薬」が期待されている。しかし、オリゴ核酸は一般に水溶性であるため、医薬品として血中に投与した場合、単独では細胞膜透過性が低く、また酵素によって容易に分解されるため、十分な治療効果が得られないのが現状である。研究代表者は最近、同研究室の上野准教授らとともにsiRNA(相補的な配列を含む標的mRNAの遺伝子発現を抑制する20塩基程度の二本鎖RNA)の3'末端2塩基突出部分の糖部あるいは糖-塩基部を芳香族化合物に置換すると、分解酵素に対する耐性が向上することを見出した。そこで本研究では、疎水性の増大による細胞膜透過性の改善を目指し、芳香族化合物の3'末端水酸基を欠損させたsiRNAの合成に着手した。この水酸基欠損型siRNAは標的とする遺伝子の発現をより強力に抑制することも期待できる。 従来の固相合成法では3'末端水酸基の除去は困難であることから、目的のsiRNAを合成するにあたり、新規修飾法を開発する必要があった。研究代表者は、ボロン酸エステルあるいはスルホン酸エステルを連結した固相担体を用いてオリゴ核酸を構築後、脱ボロン酸化や脱スルホン酸化を伴った反応により目的のsiRNAに変換することとした。種々の担体を調製し、鋭意検討を行った結果、スルホン酸エステル連結型担体を用いることにより、目的のsiRNAを合成する上で鍵となる末端にスルホン酸エステルを導入したオリゴ核酸を合成することに成功した。 本研究の達成によって、siRNAを静注あるいは経口投与可能な医薬品として創製する上でこれまで障壁となっていた課題、すなわち細胞膜透過性、酵素耐性、化学修飾によるRNAi効果の低下を解決できると期待される。また、開発した手法を用いることによりsiRNAの体内動態を評価する上で有用な放射性同位元素や陽電子放出元素、あるいは蛍光性物質を導入したプローブ合成も可能となる。
|