近年、疾病治療の目的として、DNAやRNAなどのオリゴ核酸をヒトの体内に投与する「核酸医薬」が期待されている。しかし、オリゴ核酸は一般に水溶性であるため、医薬品として血中に投与した場合、単独では細胞膜透過性が低く、また酵素によって容易に分解されるため、十分な治療効果が得られないのが現状である。研究代表者は最近、上野准教授らとともにsiRNA(相補的な配列を含む標的mRNAの遺伝子発現を抑制する20塩基程度の二本鎖RNA)の3’末端2塩基突出部分の糖部あるいは糖-塩基部を芳香族化合物に置換すると、分解酵素に対する耐性が向上することを見出した。そこで本研究では、疎水性の増大による細胞膜透過性の改善を目指し、芳香族化合物の3’末端水酸基を欠損させたsiRNAの合成に着手した。目的の3’末端水酸基欠損オリゴ核酸合成を目指して脱スルホン酸化や脱窒素による脱水酸基化が可能な官能基を導入した担体を開発し、対応する前駆体を含むオリゴ核酸を合成することに成功した。 また、平成23年度に合成した3’末端2塩基のリボヌクレオシドの塩基部を欠損させたsiRNAが対応する天然型ヌクレオシドを導入したsiRNAと比較して、優れた遺伝子発現抑制能ならびに分解酵素耐性を有し、3’末端突出2塩基の塩基部を欠損させても遺伝子発現抑制活性が低下しないことが判明した。そこで、突出2塩基を疎水性残基に置換したsiRNAライブラリー構築のために、ヌクレオシドの塩基部をエチニル基に置換した1-デオキシ-1-エチニル-β-D-リボフラノースの立体選択的合成を検討した。市販のD-リボフラノース誘導体から1-デオキシ-1-エチニル-β-D-リボフラノースを立体選択的に合成することに成功した。銅存在下での1-デオキシ-1-エチニル-β-D-リボフラノースとアジド化合物との環化付加反応は効率的に進行した。
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