【研究の目的】固形腫瘍内の低酸素領域においてHIFは、血管誘導因子の発現を亢進することにより病的血管新生を誘導する。このような経路を介してがん細胞の増殖や浸潤・転移を促進することからHIFはがん治療の標的分子として最近注目されている。我々は以前、カルボラン化合物GN26361が低酸素によるHIF-1の活性化を抑制することを見出した。そこで本研究では、ケミカルバイオロジー的アプローチでGN26361の作用機序の解明を行った。 【方法】GN26361の化学構造を基に、光反応により標的タンパクと共有結合を形成する光反応性官能基ベンゾフェノンを導入し、さらにアジド含有蛍光剤とのクリック反応ライゲーションのために末端アセチレンを導入したGN26361プローブ分子を合成した。 【結果と考察】プローブ分子と反応させたHeLa細胞ライセートをSDS-PAGEを行い、蛍光イメージングにてプローブ分子と共有結合した蛋白質の可視化に成功した。さらに、2次元電気泳動を行い、ゲル内トリプシン消化法で断片化し、ゲルから抽出されたペプチドは質量分析装置(ESI-TOF-MS)を用いてペプチドマスフィンガープリンティング法により解析したその結果、標的分子であるHSP60の同定に成功した。また、プローブとリコンビナントHSP60の結合はGN26361によって抑制された。既知HSP60阻害剤であるETBはGN26361と同様にHIF-1レベルを抑制し、HIF転写活性を阻害した。以上のことからGN26361のHIF-1阻害作用機序を明らかになり、HSP60はHIF阻害剤開発の新たなターゲットになると思われる。
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