本研究は、我々が開発して来たオーダーN法第一原理計算手法と大規模分子系量子化学計算手法を、タンパク質-タンパク質機能制御分子複合体系に適用し、この系における分子間相互作用や環境効果等を明らかにし、新奇なタンパク質機能制御分子のデザイン指針と提案を行うことを目標とする。また、生体系に対する第一原理計算に基づく研究を行うために必要な理論手法を明らかにし、インシリコ創薬スクリーニングにおける化合物最適化手法の実効利用を高める技術基盤の構築を行う。 今年度は、(1)オーダーN法第一原理計算(CONQUEST)、(2)フラグメント分子軌道(FMO)法)、(3)分割統治(DC)法に関して、(1)第一原理計算による最適化構造におけるvan der Waals(vdW)計算評価、(2)溶媒効果、(3)DC計算条件の検討を行った。実験による結合親和エネルギーが報告されているFK506-binding proteinとその制御分子系(約1700原子)を用いた。 (1)では、我々の第一原理計算による最適化構造を用いた。vdW計算(vdW-DFとDFT-D2)を導入した分子間相互作用エネルギー(BE)計算値と実験値との相関係数は、PBE/DZP、1SCF計算条件で、vdW-DFは0.83、DFT-D2は0.86であった。vdW計算によりBEの絶対値誤差は大きくなる。今後は分子の動的効果を導入した第一原理手法開発が必要と考えられる。(2)では、FMO2-MP2/6-31G(d)計算条件で溶媒効果(PCM)を評価した。実験値との相関係数は0.90であり溶媒効果の導入で良い相関を得る。(3)では、サブシステム形状とバッファ半径について、RHF/STO-3G、1SCF計算条件で評価した。2つの形状(フラグメント型と原子型)共にバッファ半径8.0Åで全エネルギー誤差が0.1mHaで抑えられる事が分かった。
|