グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)は、フェーズIIに属する解毒系酵素であり、疎水性化合物に対するグルタチオン(GSH)の求核攻撃を触媒する。このGSTの過剰発現が腫瘍の薬剤耐性の一因となっているため、細胞内のGST活性レベルを知ることは、抗がん治療において投与する薬剤選定等の決定のための重要な指針になる。しかし、既存のGST検出プローブは蛍光を発する際に基質がGSH抱合体となり、多剤耐性タンパク質により速やかに体外に排出されてしまうことから、生体への応用は困難であった。このことから、GST/GSH薬剤排出機構の影響を受けないGST検出プローブの開発は、GSTを標的とした細胞内イメージング等へと研究展開を図る上で非常に重要である。本研究ではアリールスルホニル基を保護基に用いて、基質自身はGSH修飾を受けず排出機構の影響を受けない、細胞内で定量性に優れた検出プローブ開発を試みた。 本年度は、アリールスルホニル基に求電子性の異なる様々な置換基を導入し、各種アリールスルホニル基で保護したプローブとGSTの反応性について検討を行った。結果、p位アセチル基もしくはシアノ基を用いたアリールスルホニル基を保護基に用いることで高いシグナル・バックグラウンド比を持つGST検出用蛍光プローブを得ることができた。さらに色素にクマリン、ローダミンおよびクレシルバイオレットを用いることで、450から650nmまでの異なる色調のGST検出プローブの開発に成功した。また、Karolinska研究所と共同で各種GSTのサブタイプに対するプローブの反応性についても検討を行った。その結果、今回合成したプローブは、特にGSTA1-1に対し高い特異性を示すことが明らかとなった。
|