研究概要 |
近年,間葉系幹細胞(MSC)を分化誘導した細胞(加工細胞)を用いた組織・臓器の再生技術等に関する研究が急速に進展しており,MSC由来加工細胞の細胞治療薬としての有効性が実証されつつある.その一方で,MSC由来加工細胞の適切な分化評価法は確立されていない.今後,MSC由来加工細胞を用いた再生医療を実現するためには,MSCの分化に対して鋭敏に反応する細胞特性指標を確立することが急務である.糖鎖は,細胞の分化や増殖等の様々な生命現象に伴い変化することが報告されており,MSC由来加工細胞の指標として利用できる可能性がある.そこで本研究では,細胞発現糖鎖のMSC分化指標としての利用可能性を評価することを目的として,まず,MSC及びMSCの骨,軟骨及び神経様分化誘導初期の細胞から調製した糖鎖について液体クロマトグラフィー/質量分析法(LC/MS)によりプロファイリング行った.その結果,MSC及び分化誘導初期細胞の主要糖鎖は,高マンノース型糖鎖,混成型糖鎖,パウチマンノース型糖鎖,複合型2~4本鎖糖鎖であること,また,興味深い糖鎖として,フコースを2分子有する糖鎖やN-アセチルラクトサミンを有する糖鎖等が存在することが明らかとなった.つぎに,糖鎖プロファイルを用いて主成分分析を行った結果,MSC及び分化誘導初期細胞は異なる位置にプロットされること,また,骨,軟骨及び神経様分化誘導に伴い,高分岐した複合型糖鎖の発現量において,それぞれ特徴的な変化がみられることが明らかとなった.以上の結果,糖鎖は,MSC及びMSCの分化誘導初期細胞を区別するための指標として利用できることが実証された.今後,結合量に変化のみられた糖鎖について,より詳細な定量解析を行うとともに,MSCの分化指標としての利用可能性について検討する予定である.
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