現行の抗HIV/エイズ治療法の最大の問題である薬剤耐性HIV-1出現を回避するため、新しいHIV-1複製制御法を目指すことを大目標としてきた。その標的分子の条件として、1)宿主因子であり、2)その宿主因子と関わるウイルス性因子は高度/完全に保存されていることとした。本研究では、この2条件に合致する宿主因子N-ミリストイルトランスフェラーゼ(NMT)を標的とする、HIV-1複製に対する特異性の高い、新しいNMT制御・阻害方法開発のための基礎研究を行った。 研究の特色は、複数のNMT isozymeの存在とリボゾーム局在型NMTに着目しHIV複製と密接に関連すると予想されたリボゾーム局在型NMT1をターゲットとした新しい抗HIV戦略を目指す点である。当該年度はNMTのリボゾーム局在の機構解明のための基礎研究を実施した。NMTのアミノ末端領域はリボゾーム局在に重要な役割を果たしていることが分かってきた。特にアミノ末端領域のリン酸化とリボゾーム局在との関連が示唆された。またNMT1と相互作用するタンパク質の探索を行い、これまで、NMT1がおよそ250kDaの複合体で存在していることが明らかになり、その構成タンパク質の一つである70kDaの結合タンパク質を同定した。このタンパク質はNMTのアミノ末端領域を介して相互作用していることが示唆された。また、NMT1のアミノ末端領域からなる変異体(触媒領域欠損変異体)の発現が、HIV-1産生の低下をもたらした。このことは、リボゾー局在型NMT1がHIV産生と関連していることが示唆された。今後、NMT複合体の全容を明らかにし、個々のタンパク質のNMTの機能発現における意義を解明していく。その中で、これまでに無い全く新しい、NMTを介したHIV-1複製制御法のための新しい戦略を構築していこうと考えている。
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