本研究では、低用量のトリフェニルスズ(TPT)が胸腺の脂肪化・萎縮および免疫系に及ぼす影響について検討を行う目的で、C57BL6/J雌(WT)マウスにTPTを14日間連続で経口投与した後に解剖し、臓器重量を測定した。その後胸腺、脾臓、肝臓、脂肪における脂肪化に関連する遺伝子(PPARγ、aP2、CD36)のmRNA発現量を評価した。また、PPARγヘテロ欠損(KO)マウスを用いて同様の検討を行うことでTPT曝露の影響がPPARγ活性化作用を介して起こるものであるかを検討した。さらにTPT投与後のマウス胸腺について組織学的な検討を行った。また、胸腺、脾臓を摘出後、単細胞化して細胞数を計数し、リンパ球サブセットの解析を行った。 その結果、WTマウスのTPT投与群でコントロール群と比較して有意な胸腺重量の減少、脂肪重量の増加が認められ、胸腺においてPPARγ、aP2、CD36mRNA発現量の有意な増加が認められた。またKOマウスのTPT投与群においては、WTマウスと比べてこれらの変化が減弱されている傾向が認められた。組織学的検討によりTPT投与群の胸腺において脂肪滴の蓄積を確認した。さらに、胸腺および脾臓においてTPT投与群でリンパ球細胞数の有意な減少が認められ、リンパ球サブセット解析により、TPT投与群の脾臓においてCD3陽性ナイーブT細胞の割合が減少する傾向が確認された。 以上の結果から、TPT曝露により胸腺の脂肪化・萎縮が促進されることで、末梢においてリンパ球ポピュレーションが変化し、免疫機能の加齢化が促進される可能性が示唆された。また、WTマウスと比べて、KOマウスで胸腺重量の減少、脂肪化に関与する遺伝子群のmRNA発現が減弱していたことから、TPT曝露による胸腺重量の減少には、胸腺の脂肪化が関与し、その作用はPPARγ活性化作用を介して起こることが示唆された。
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