現在のところ、免疫系における胎児期におけるエストロゲン曝露の役割やエストロゲン物質曝露による影響の評価に関しては、評価が定まっていないのが現状である。この原因としては、哺乳動物では胎児が母体-胎盤-胎児複合体を形成するため、被験物質の影響を評価する際に作用点が複数考えられること、また大量のエストロゲンやエストロゲン様化学物質を投与した場合には、母体側の影響が無視できないことなどがあげられる。そこで本研究では、胎盤特異的にアロマターゼを発現させ、エストロゲン供給できるArom-EGFPトランスジェニック(TG)マウスを用いて、胎児期エストロゲン様物質の免疫系に対する影響を検討し、その詳細な作用メカニズムの解明を試みることを目的とした。 昨年度までに胸腺および脾臓のリンパ球ポピュレーションに変化が認められないこと、即時型アレルギーにおいて抗原感作成立後のマスト細胞の反応等を検出する受動皮膚アナフィラキシー反応に変化が認められないことを明らかにした。 そこで今年度はさらに即時型アレルギー反応における胎児期エストロゲン曝露の影響について詳細な検討を行う目的で、マスト細胞の活性化だけでなく、抗原感作や抗原に対する抗体の産生等の過程をも含む即時型アレルギー反応モデル実験である能動皮膚アナフィラキシー(ACA)反応について検討を行った。 その結果、野生型マウスと比較してTGマウスでACA反応の増強が認められ、胎児期エストロゲン曝露により即時型アレルギー反応が増強されることが確認された。また、この免疫を行ったマウスで、血中抗体量を測定したところ野生型マウスで、TGマウスで抗原特異的IgE産生量の増加傾向も認められた。これらのことから、胎児期の過剰なエストロゲン曝露は、即時型アレルギー反応の抗原感作過程に何らかの影響を与える可能性が示唆された。
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