味覚の認識に関わる味蕾には味細胞が集積している。味細胞はI型からIV型まで分類されており、味覚情報伝達においてATPは重要な味細胞間の情報伝達物質である。味刺激によって味覚受容体が興奮すると、II型味細胞からATPが放出され、III型味細胞に情報を伝達することが報告されている。一方で、I型味細胞にはATP代謝に関わるエクトエンザイムであるENTPD2が発現しているため、ATPは速やかに代謝されることが推察される。しかしながら、味細胞間でのadenosineの濃度制御機構については未だ不明である。本研究では、味覚情報伝達におけるアデノシンの生理的意義を明らかにすることを全体構想とし、具体的には、味蕾の味細胞におけるアデノシンの細胞膜輸送機構及び情報伝達機構を明らかにすることを目的とする。本年度は、味蕾の各味細胞(I-III型)におけるヌクレオシド輸送担体(NT)の中で、特にequilibrative nucleoside transporter 1 (ENT1)の発現局在をRT-PCR法および免疫組織染色法により検討し、各味細胞別のENT1陽性細胞数について解析した。その結果、ENT1 mRNA発現は有郭乳頭部位で認められた。次に、抗原吸収試験により抗ENT1抗体の特異性を確認した後、免疫二重染色にて各味細胞でのENT1発現を検討したところ、PLC-beta2陽性II型味細胞の71%、chromogranine-A陽性III型味細胞の66.4%でENT1発現が認められた。一方、ENTPD2陽性I型味細胞ではほとんど認められなかった。これらの知見により、味細胞間での情報伝達に関して、II型味細胞とIII型味細胞におけるENT1を介したアデノシンの細胞内取り込みにより、アデノシン動態が制御されている可能性が示唆された。
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