研究概要 |
味覚の認識に関わる味蕾にはI~IV型に分類される味細胞が集積しており、ATPはそれら細胞間において重要な情報伝達物質として機能するとされている(Fingeretal.,2005)。味刺激はII型味細胞に多く発現する味覚受容体を介して受容され、それにより細胞外に放出されたATPが前シナプス細胞であるIII型味細胞に情報を伝達し、さらにその情報が鼓索神経などの感覚神経へ伝達されることにより味覚が生じる。このようなATPは、グリア様細胞である1型味細胞膜上に発現するATP分解酵素nucleoside triphosphate diphosphohydrolase 2(NTPDase2)により速やかにヌクレオシドに代謝されると考えられている(Diannaetal.,2006)。これまでに我々は、ヌクレオシド輸送系の1つであるequilibrative nucleoside transporter 1(ENT1)が味細胞に発現し、ATP代謝産物としてのadenosineの細胞外濃度制御に重要な役割を担うことを示唆した。一方、adenosine自体がその受容体を介して味覚情報伝達に関与する可能性も考えられる。そこで本年度は、ラット有郭乳頭におけるadenosine受容体の発現局在及びその機能について検討した。Realtime PCRにより、ラット有郭乳頭においてアデノシンA2b受容体の発現が認められ、免疫組織染色により、アデノシンA2b受容体の免疫活性が主に味蕾のIP3R3陽性II型味細胞、そして一部GAD67陽性III型細胞において認められた。さらに、有郭乳頭を含む上皮組織において、500μMアデノシン処理により組織内のcAMP濃度が有意に増加した。これらのことより、ラット有郭乳頭味蕾部位において、ATPの代謝産物であるアデノシンがA2b受容体を介して味細胞間の情報伝達に関与している可能性が示唆された。
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