脂肪細胞の肥大化は、動脈硬化症や糖尿病の危険因子である肥満発症の最重要過程であるが、その機構は未だ不詳な部分が多い。本研究では、脂肪細胞肥大化の機構に着目し、in vitroで以下の研究を行った。 1)3次元培養下における脂肪細胞肥大化モデルの構築 マウス脂肪組織から単離した前駆脂肪細胞株と脂肪細胞分化モデル細胞3T3-L1を通常の単層培養あるいはコラーゲンゲル混合培地により3次元培養下で脂肪細胞に分化誘導して脂肪細胞肥大化モデルを評価した。単層培養の脂肪細胞は、多胞性脂肪滴を有したが、3次元培養細胞は、脂肪組織中で見られる単胞性脂肪滴を有する肥大した細胞が観察された。その単層培養と3次元培養の脂肪細胞の遺伝子発現をRT-PCR法で比較した。その結果、PPARγ2などの脂肪特異的遺伝子の発現は、単層および3次元培養間で有意な差は認められなかった。一方、脂肪細胞肥大化マーカー遺伝子MEST(Mesoderm Specific Transcript)は、予想に反して3次元培養によって大きく発現が減少した。 2)脂肪細胞肥大化機構の解析-脂肪細胞肥大化マーカー遺伝子MESTの発現機構を中心に- 食餌性および遺伝性に脂肪細胞の肥大化時に発現が増大する脂肪細胞肥大化マーカー遺伝子であるMESTの未知の発現調節機構に着目し、焦点を絞って解析した。その結果、マウス前駆脂肪細胞の分化誘導過程におけるMEST発現は、細胞内cAMPの増大に伴うPKA活性化、cAMP依存性PKA経路を介することが認められた。また、マウスゲノムのMEST遺伝子5'上流領域あるいはその部分配列を組込んだホタルルシフェラーゼ改変遺伝子を有するレポーターベクターを構築してレポーターアッセイを行った。その結果、細胞内cAMP上昇に反応するエンハンサー領域が、MEST遺伝子プロモーター近傍に存在することが分かった。
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