研究概要 |
ブナ科クリ(Castanea crenate)の葉,樹皮,実の渋皮には加水分解性タンニン類が豊富に含まれることが知られており,それらには強い抗酸化活性をはじめ抗腫瘍作用,抗ウィルス作用など多彩な機能が報告されている.一方で,クリの「イガ」については厄介者扱いされるだけで全く研究対象とされていないことから,未利用植物素材の機能開発およびそれらの有効活用に向けた基礎的研究の足がかりとする目的で,イガの各種アルコールおよび含水アセトン抽出物についての抗酸化能評価(ORAC法)を行った.その結果,イガの含水アセトン抽出物に最も強い抗酸化活性を認めたため,その成分構成を明らかにする目的で詳細な成分精査を行い,14種のポリフェノール類[gallic acid, ellagic acid, protocatechuic acid, kaempferol 3-O-(6"-O-p-coumaroyl)-glucoside,3,3'-di-O-methylellagic acid,3,3',4-tri-O-methylellagic acid,1,2,3-tri-O-galloylglucose,1,2,3,6-tetra-O-galloylglucose,1,3-di-O-galloyl-4,6-HHDP-glucose, tellimagramdin I, tellimagrandin II, casuarictin, casuarinin, castalagin]を単離・同定した.また,得られた各化合物を標準試料として成分分析を行った結果,本抽出物にはcasuarinin, tellimagrandin I, tellimagrandin IIなどの加水分解性タンニンやellagic acidおよびそれらのメチル化物が主成分として豊富に含まれることを明らかにした.単離した化合物のうちC-配糖体型エラジタンニンであるcasuarininは加水分解を行うことでエラグ酸のC-配糖体化物が生成することを確認しており,それにはエラグ酸と同等あるいはそれ以上の活性が期待されることから,エラグ酸C-配糖体化物のイガからの効率的な抽出方法の検討による量的確保,およびそれらを用いた各種生理活性評価を行う予定である.
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