研究概要 |
慢性腎臓病(CKD)において尿毒症物質蓄積と腎障害進行は相互に促進因子として働き、悪性サイクルを形成する。その結果、透析導入患者の増加は医療費増加の大きな原因となり、臨床においては新たな尿毒症物質排泄システムの構築と腎不全進行阻止が重大な課題である。しかしながら尿毒症物質の排泄メカニズムは十分に解明されていない。我々はヒト腎臓腎尿細管上皮血管側に特異的に発現して尿毒症物質を排泄する有機アニオントランスポーターSL,CO4C1を単離した(PNAS,2004)。腎不全時にはSLCO4C1の発現低下が尿毒症物質蓄積の一因となる。ヒトSLCO4C1-腎臓特異的トランスジェニックラットの腎不全モデルでは尿毒症物質の排泄が促進され、腎不全時の高血圧、心肥大、腎内炎症が軽減した。本研究ではSLCO4C1の発現調節機構を解明し、トランスポーターを強力かつ副作用無く誘導する薬物を探索して、腎機能低下時にSL、CO4C1の発現を増強して腎不全進展を阻止する治療法の開発を目的とした。SLCO4C1プロモーター領域のルシフェラーゼレポーターを用いた検討で、スタチンがその転写活性を亢進し、本邦で臨床投与されている6種類のスタチンは何れも異なる用量反応性をもってSLCO4C1転写亢進作用を有することがわかった。CKD患者にスタチンを新規投与すると蛋白尿の減少とともに血中尿毒症物質が低下することが倫理委員会を通した患者血清・尿検体における検討で明らかになった。さらにSLCO4C1プロモーター領域でインドキシル硫酸などの尿毒症物質がGATA転写因子を介して、SLCO4C1の発現を抑制することが新たに明らかとなった。GATA転写因子はこれまでに炎症性サイトカインで誘導され、炎症時に造血ホルモンのエリスロポイエチンの産生を抑制することが報告されており、腎不全時の腎性貧血の病態への関与が想定される。GATAを介した尿毒症物質による発現抑制の解除は新たなSLCO4C1発現増強の手段になると考えられ、現在上記の発現促進系の薬剤と共に発現抑制系を解除する薬剤の探索に着手している。
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