臨床における薬剤性肝障害を動物で再現することは困難と考えられてきたが、近年、リポポリサッカライド(LPS)の低用量前投与により多くの薬物で肝障害を再現できるとの報告がなされている。LPSは一般に免疫系を活性化し種々の炎症性サイトカインを誘導することで肝細胞の薬剤感受性を高めると考えられるが、加えて申請者は肝細胞内GSHの低下も重要な要素であり、その低下がGSHの肝細胞外への排出亢進によるとの仮説を考え、これらの点を詳細に検証した。ラットに1mg/kgのLPSを投与することで肝臓のGSHは約70%に低下し、この低下分は肝静脈中濃度と末梢血濃度の差分から算出される肝細胞から血液側へのGSH排出量とほぼ等しかった。LPS 1mg/kg投与2時間後にジクロフェナク(DCLF)100mg/kgを投与することにより肝障害マーカーは著しく上昇した一方、いずれか片方のみの投与では肝障害マーカーの上昇は見られなかった。LPSとDCLFを併用したラットに対しGSHあるいはNアセチルシステインを投与することで肝臓内GSHを維持した場合には肝障害マーカーの上昇は抑制された。以上より、LPSによるDCLFの肝障害発症には肝細胞内GSHの低下が必要であり、GSHの低下の大部分は肝細胞から血液側への排出亢進によることが示された。また、GSHを化学的に消去するDEM投与によりLPS投与時と同程度まで肝臓内GSHを低下させた状態のラットに、LPSにより誘導される種々炎症性サイトカインmix(TNFα+IL1β+IL6+INFγ)ならびにDCLFを投与した場合、著しい肝障害マーカーの上昇が観察され、いずれか一つの要素を欠いた場合にはその上昇は僅かなものであった。以上より、肝細胞内GSH低下と炎症性サイトカイン上昇は、薬物に対する肝細胞障害感受性を相乗的に高めていることが示された。
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