研究概要 |
生体内に投与されたシスプラチン(CDDP)の一部は肝臓でグルタチオン複合体(CDDP-GSH)に変換され、次いで細胞表面酵素によってシステイン複合体(CDDP-Cys)へと変換される。CDDP-Cysは細胞内に取り込まれ、毒性本体と考えられるチオール化合物(CDDP-S^-)へと変換される。本研究は、CDDP-NAC(N-アセチルシステイン複合体)の尿細管輸送に関わる薬物トランスポータの役割を解明することを目的として実施した。平成23年度はCDDP-NACの生成条件を検討し、NACの1分子結合体および2分子結合体の生体膜輸送の特性について検討した。CDDPに等量のNAC,2倍量,3倍量、4倍量のNACを加えたところ、NACの容量依存的に吸光度の上昇がみられ、反応時間が4時間では、各溶液の吸光度の差が大きかったことから、この反応時間を用いてCDDP-NACの細胞輸送実験を行った。有機アニオントランスポータ3(OAT3),有機カチオントランスポータ2(OCT2)を発現させたHEK細胞では、CDDP単独投与の細胞内取り込み速度が最も速く、NACの反応割合を高くするにつれて、細胞内への取り込み速度が低下していた。また、OAT1を発現させたHEK細胞においても、CDDP単独投与した場合に細胞内取り込み速度が最も速く、次いで等量、2倍量、4倍量、3倍量のNACで反応させた複合体の順であった。 これまでに、CDDPの毒性本体はシステイン複合体から生成されるCDDP-S-という報告、システインの投与は腎毒性を軽減するといった相反する報告がある。本研究結果から、システインの投与により生成されるCDDP-NAC複合体は、CDDP単独より腎側底膜からの吸収が低下するため、腎細胞への傷害が軽減されることが示唆された。
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