現在、生体肝移植において、臓器保存としてUniversity of Wisconsin (UW)液が広く使用されているが、このUW液は、保存臓器に対して、抗ネクローシスの作用により、保護的に作用するにもかかわらず、冷阻血時には、アポトーシス細胞死も引き起こされることが明らかになっている。したがって、このアポトーシスでの細胞死には、UW液では不十分であり、抗アポトーシス作用を付加する必要があった。そこで本研究では、当研究室が開発した抗アポトーシス作用を有するアルブミンにNOを付加したSNO-HSAが、UW液中かつ低温下でも発揮されるかを検討した。その結果、ラットの肝臓やヒトの肝臓の細胞を用いた検討において、SNO-HSA添加UW液は、抗ネクローシス&抗アポトーシス作用により長時間にわたり、保護作用を示した。そのメカニズム解析を行ったところ、低温下においても、SNO-HSAは、肝臓へのNOの供給を効率的に行い、抗酸化タンパク質であるHO-1を3時間以内に誘導することが明らかとなった。この作用は、低分子のNOドナーであるS-ニトロソグルタチオンの同濃度処理では、効果がなかったことから、SNO-HSAの効率的かつ持続的なNO輸送が重要であると推察された。今後、改良型UW液の開発に繋げていくために、大量かつ効率的なSNO-HSA作製法の確立を目指し、実際の使用方法を念頭においた安定性や安全性試験を行っていく予定である。iPS細胞の技術で今後の臓器移植にも大きく変革を齎すことが予想されるが、臓器によっては困難であることやがん化の可能性を克服する必要がある。本研究を通して、臓器の低障害性かつ長時間の保存が可能になるような保存液の開発の一助になることで、臓器生着率や移植安全性を高め、多くの患者様や移植医療へ貢献できればと切に願っている。
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