ヒトにおける薬物のin vivo代謝予測にはヒト肝組織を用いる必要があるが、生体外から分離された肝細胞の薬物代謝酵素活性は分離数日後にほぼ消失する。このため、肝細胞機能をより長期間保持し、薬物代謝の評価が可能なヒト肝細胞培養系の構築が求められている。本研究では、肝細胞機能の高い培養系構築のために、培養した細胞をシートとして回収できる温度応答性培養皿を用いて、ヒト肝細胞と血管内皮細胞を3次元的に重層し、肝小葉構造を模倣した培養系を作製し,薬物代謝評価に有用な培養系となるか解析する。 研究項目1)ヒト小型肝細胞と内皮細胞の重層化共培養における、薬物代謝遺伝子の網羅的発現解析 前年度に、成熟肝細胞より未分化で増殖能をもつヒト小型肝細胞を分離培養した。温度応答性培養皿を用いて、血管内皮細胞をシート状に培養して回収し、この細胞を、別途培養しておいたヒト小型肝細胞に重層し、共培養系を構築した。この重層化共培養と小型肝細胞単独培養について、薬物代謝関連遺伝子の発現を、網羅的かつ定量的に解析できるPCR アレイを用いて解析した。測定した84遺伝子のうち14遺伝子について、積層化共培養で3倍以上の発現上昇がみられた。 研究項目2)ヒト小型肝細胞と内皮細胞の重層化共培養における、薬物代謝遺伝子の発現解析と活性測定 構築した重層化共培養において、薬物代謝遺伝子の発現変化をリアルタイムPCRを用いて解析した。小型肝細胞単独培養に比べて、CYP3A5は約5倍の発現上昇がみられた。また、CYP3A4の酵素活性は、小型肝細胞単独培養に比べて重層6日目に1.7倍、8日目に3倍の活性上昇がみられた。研究項目1),2)の結果より、本研究において作製したヒト小型肝細胞と内皮細胞の重層化共培養系は、薬物代謝関連遺伝子の発現や活性が小型肝細胞単独培養よりも高く保持されており、薬物代謝評価系になる可能性が示唆された。
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