キスペプチンは視床下部から分泌され、性成熟との関連が示唆されているペプチドである。末梢ではがんの進行や妊娠との関運が報告されているが、生理作用は依然不明な点が多い。報告者は血漿中キスペプチン濃度のバイオマーカーとしての開発を目的に、がん、性成熟障害、排卵機能障害の3領域における研究を進行中である。研究協力者から送付された血漿検体中のキスペプチン濃度を申請者が開発した酵素免疫測定法にて測定し、データを蓄積、解析を行った。研究協力施設を受診した性腺機能低下症患者(20代男性)の血漿中キスペプチン濃度を測定したところ、健常人に比べ低下していることが判明した。各種ホルモン負荷試験および治療前後での血漿中キスペプチン濃度を測定したが、有意な反応は認められなかった。このことより視床下部性の性腺機能低下症と診断することができ、性腺機能低下症の診断において、一定の基準となりうることを明らかとした。それらの成果は第31回日本臨床薬理学会年会にて発表した。また、性成熟領域においては、中枢におけるキスペプチンの定量を行う必要があり、動物実験が不可避であるため、マウスキスペプチン濃度測定のための酵素免疫測定法の開発に着手した。現在、他のペプチドとの交差反応性などを確認中である。妊娠合併症患者および健常妊婦の血漿中キスペプチン濃度データを集積・解析したところ、健常妊婦における血圧と血漿中キスペプチン濃度の相関性を示唆する結果が得られた。妊娠高血圧症候群患者においては健常妊婦と比較して定値を示すことが示唆され、それらの結果を第20回日本医療薬学会にて発表した。今後もさらに症例を集積し、解析を行っていく予定である。
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