キスペプチンは視床下部から分泌され、性成熟との関連が示唆されているペプチドである。末梢ではがんの進行や妊娠との関連が報告されているが、生理作用は依然不明な点が多い。報告者は血漿中キスペプチン濃度のバイオマーカーとしての開発を目的に、がん、性成熟障害、排卵機能障害の3領域において研究を行った。研究協力者から送付された血漿検体中のキスペプチン濃度を申請者が開発した酵素免疫測定法にて測定し、データを蓄積、解析を行った。現在までに膵臓がん患者46名、性腺機能低下症患者8名、妊娠高血圧患者26名、妊娠糖尿病患者6名、多嚢胞性卵巣症候群患者120名、不妊症患者70名および健常人の血漿中キスペプチン濃度を、独自に開発した酵素免疫測定法にて測定し、健常人とまたは病態との比較を行った。キスペプチンをバイオマーカーとして利用可能な疾患を検討したところ、がんに関しては、血漿中キスペプチン濃度と病態との関連はがん種によって異なることが推察され、異なるがん種での検討が必要であることが分かった。性腺機能低下症患者などの中枢性疾患に関しては性差、年齢などを考慮した、さらなる症例の集積が必要ではあるが、抹消キスペプチン濃度と病態との関連は極めて少ないことが示唆された。妊娠に関連する疾患については、特に妊娠高血圧症候群患者においては、健常人と比較して有意な差を示し、病態と比較しても十分な関連が示唆され、早期診断が可能な疾患として大いに期待される。これらの結果は第32回欧州ペプチド討論会にて発表した。現在、論文を執筆中である。
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