哺乳動物の大脳皮質の形成において、適切な時期に適切な数の細胞が増殖・分化を行うことは重要である。マウスでは胎生中期以降、終脳背側の脳室面で神経幹/前駆細胞が増殖と分化を繰り返し、分化した神経細胞は脳表面に向かって法線状に移動することで、6層構造を持つ大脳皮質が形成される。大脳皮質の発生は様々なシグナルが複雑に関与することで、神経細胞の分化や移動、分布、神経ネットワークの構築が調節されている。Sonic hedgehog(Shh)は胎生中期以降に終脳背側に発現し、重篤な脳神経系の先天異常である全前脳胞症の原因遺伝子の一つであることから、大脳皮質の発生・発達異常を引き起こす分子メカニズムの解析を行った。終脳背側特異的にShhシグナルの介在因子であるSmoothenedの発現を抑制したコンディショナルノックアウト(cKO)マウスを作製し、大脳皮質の形態形成について詳細な解析を行ったところ、Shhシグナルが神経幹細胞の増殖や生存、分化を制御しており、特に細胞周期を調節することによって神経幹/前駆細胞の分化を制御していることを示した。この細胞周期の調節異常は、Shhシグナルの下流で作用するサイクリンD1、Eの発現が減少し、細胞周期が延長することによって起きていることを示した。また、このcKOマウスはサブプレート(6B層)が低形成であり、そこを通り大脳皮質に投射するドパミン作動性ニューロンが減少していることを明らかにした。つまり、Shhシグナルは神経幹/前駆細胞におけるサイクリンの発現を制御することによって細胞周期を適切に調節し、神経新生、さらには大脳皮質の層構造の形成に関与している。このことは大脳皮質へのドパミン作動性ニューロンの投射にも影響しており、機能的な成熟にも影響している。これらのことから、終脳背側に発現しているShhシグナルは細胞周期の調節を介して、大脳皮質の形態的、機能的な成熟に重要な役割を果たしていることが明らかになった。
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