脊椎動物の体は大まかに頭部と体幹からできている。頭部では外胚葉性の頭部神経堤細胞が結合組織を作り、その腹側では複数の咽頭弓が分節的に配置している。それぞれの咽頭弓を満たす神経堤細胞からは顎、舌骨などの鯉弓骨格が形成され、これらに付着する中胚葉起源の筋を臓性の末梢神経が支配している。一方、体幹では中胚葉が結合組織を作り、その背側には体節が分節的に配置している。その中には中胚葉性の骨格と筋が発生し、これらは体性末梢神経によって支配されている。;れら頭部と体幹の中間にあるのが頸部であり、ここでは僧帽筋と舌筋群が頭部と体幹を結んでいる。本研究ではこれらのうち舌筋群の発生を観察した。この筋群は純粋に体幹に属する筋群でありながら、その頭側は舌を構成する筋として頭部に位置し、尾側は肩帯にまで付着している。特定の遺伝子発現や細胞系譜解析の結果、羊膜類のこの筋群は、頭部神経堤細胞によって作られる咽頭弓の尾側縁の中を未分化な間葉として選択的に移動して形成されることが分かった。このような舌筋群の形成様式は原始的な脊椎動物であるヤツメウナギでも観察できる。ところが進化的にヤツメウナギと羊膜類の中間に位置するトラザメで舌筋群の形成を観察したところ、それは背側の体節から伸びる分節状の構造が、咽頭弓の後縁を回って咽頭底まで伸びて作られていた。矢状組織切片で観察すると、この舌筋原基では上皮構造は見られないものの、筋節と思われる密に凝集した細胞群が分節状の構造を維持していた。また遺伝子や分子の発現からこの細胞群は確かに筋節であることが確かめられた。これはサメの筋形成が必ずしも原始的状態を反映せず二次的に変化していることを示唆しており、原始的状態と考えられてきたサメの鰭の筋形成もまた派生的である可能性が考えられる。
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