本研究では越シナプス性ニューロン連絡を神経解剖学的に解析することにより、前頭葉から視覚経路を構成している背側経路のMT野・腹側経路のV4野へ投射するトップダウン式視覚情報処理ネットワークの解明を目指す。4頭のマカクサルに固視課題を習熟させた後、様々な視覚刺激(色、動き、形態を変化させた視覚刺激)を中心視野・周辺視野の受容野に提示した上でMT野・V4野を電気生理学的に同定し、それぞれに狂犬病ウイルスを注入した。2次ニューロン・3次ニューロン結合を調べるため生存日数を変化させた上で灌流固定した。今後は得られた脳標本から切片作成後に定性的・定量的解析を行う予定である。 また併せて、MT野が含まれる頭頂葉の多岐に渡る機能を調べるためにサルに単一動作回数情報のみに基づいて動作を切り替える課題を課した。課題遂行中、頭頂葉から電気生理学的に細胞活動を記録し、動作回数に依存して活動が変化する細胞活動を多数記録すると同時に、課題関連活動が多数記録された領域にムシモールを注入することにより局所的かつ一時的に不活性化させた。結果、動作回数情報を基に動作を切り替えることができなくなり、反応時間も動作回数が増加するに従って延長した。一方、音刺激で動作を切り替えることには何の障害も受けなかった。自ら施行した動作回数情報を基に動作を切り替える際には頭頂葉が非常に重要な役割を果たしていることが示され、この結果はJ Neurophysiol (Sawamura et al. 2010)に発表された。
|