研究概要 |
視覚情報は色や形、動きなどの構成要素毎に異なる大脳皮質視覚野で情報処理が行われる。これらの情報処理機構は網膜からの光情報を段階的に処理している(ボトムアップ式)だけではなく、注意や記憶等により修飾を受けている(トップダウン式)。本研究では越シナプス性ニューロン連絡を神経解剖学的に解析することにより、視覚経路を構成する背側経路・腹側経路へ投射するトップダウン式視覚情報処理ネットワークの解明を目指すことを目標とした。 マカクサルの背側経路に存在するMT野、腹側経路に存在するV4野それぞれに神経トレーサーとして狂犬病ウイルスを注入し、前頭葉、内側側頭葉からMT、V4各領域へ至る神経連絡に関して研究を行った。 結果、前頭葉からMT野とV4野に伝達されるトップダウン式信号は前頭前野に存在する46野腹側部,そしてMT野に関しては補足眼野からも発信され、眼球運動の中枢である前頭眼野や外側頭頂間溝周辺領域の異なる神経細胞によって別々に中継されていることが明らかになった。この結果から、視覚情報処理に影響・修飾を及ぼしている主要な領域が明らかになり、前頭前野と高次視覚野との相互作用の神経基盤の一端が解明された。 また、内側側頭葉からV4野へ至るトップダウン式信号に関しても検討を行った。結果、先行研究で示唆されているように嗅内皮質が固有海馬からの情報伝達の主要な中継点であると考えられること以外に、嗅内皮質とV4野とが3次ニューロン結合をしていること、及び固有海馬からV4野への情報伝達に際して嗅内皮質を経由しない”近道”経路の存在が示唆されること、が新たな知見として得られた。この結果で得られた多シナプス性経路は視覚情報処理システムの腹側経路で行われる物体の認知の際に必要な記憶情報を提供していると考えられた。
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