研究概要 |
本年度は、癌細胞に異常発現するナトリウムポンプ(Na^+,K^+-ATPase α3-isoform(α3NaK))の病態生理機能を、in vitro実験およびin vivo実験において検討した。まず、ヒト大腸癌由来HT-29細胞におけるα3NaKの細胞内分布を、密度勾配遠心分離を用いた細胞内小器官分離法により検討した。α3NaKの分布パターンは、Na^+,K^+-ATPase α1-isoform(α1NaK)および原形質膜マーカーのflotillin-2の分布パターンとは明らかに異なっていた。また、高圧凍結技法を用いた免疫電顕を行なったところ、大腸癌細胞においてα3NaKは、原形質膜直下の小胞に集合して存在していることを示す画像が得られた。前年度の結果と合わせて、α3NaKは、原形質膜ではなく、細胞質内の小胞に分布していることが強く示唆された。 次に、癌細胞の細胞内小胞に局在するα3NaKの機能を明らかにするため、マウス大腸癌由来colon38細胞にα3NaKを過剰発現させた。過剰発現したα3NaKは、ヒト癌細胞の場合と同様に細胞内においてrabタンパク質と共局在していた。MTTアッセイを行なったところ、α3NaKの過剰発現細胞では未発現細胞に比べて、有意にミトコンドリア活性が上昇した。そこで、C57BL6Nマウスにおいて、colon38細胞の皮下移植実験を行なった。α3NaKの過剰発現細胞を移植したマウスは、未発現細胞を移植したマウスに比べて、腫瘍成長率が有意に増加した。前年度に行なったノックダウン実験の結果と合わせて、トラフィッキング異常により小胞に局在するα3NaKは、癌細胞の生存メカニズムに関与している可能性が示唆された。
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