本研究の目的は、心臓ペースメーカー細胞のリズム形成における細胞内Ca^<2+>濃度変化の役割とその寄与の大きさを定量的に解明することである。この問題は心臓をもつ生物の生命がいかに維持されているかという根源的な問いに対して答えを与える重要なものであり、半世紀もの間激しい議論が繰り返されてきたが、未だ科学的な結論が得られていない。初年度における目標は薬理学実験のデータ収集を完了させ、細胞モデルシミュレーションで実験結果を検証することであった。当初の予定通りにデータをそろえてモデルで検証し、細胞内Ca^<2+>濃度が洞房結節ペースメーカー細胞における拡張期緩徐脱分極相でNa/Ca交換電流を引き起こすことで脱分極のスピードを促進してペースを上げるというLakattaらの提唱する仮説が間違いであることを指摘し、一報の論文を仕上げることができた。この論文は反響を呼び、掲載誌にEditorial Focusという形で取り上げられた。それは、「Himenoらが発表した論文は洞房結節ペースメーカー細胞における急性期の薬物作用を新しい実験手技を用いて明らかにし、membrane clockかCa2+ clockのどちらが優勢かというこれまでに極端に単純化した議論から、Ca2+濃度の短期的、長期的効果という二つの経路を改めて定義し直したという意味で重要な役割を果たした」というような内容であり、我々のこの分野への貢献を評価するものであった。また続いてLakattaらからLetter to the Editorが発行され、我々がおこなった実験条件下では人工的なリーク電流が発生しており本来のCa2+の役割が正しく評価されていないとの指摘を受けたが、それに対して我々が等価回路を用いてリーク電流がペースメーカー機序に影響していないことを説明したResponse to Letterを投稿し、受理された段階である。
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