本研究では、発生過程の大脳皮質神経系前駆細胞(NPC)におけるWnt5aとRor2受容体の役割について、非古典的Wntシグナルの誘導と分化制御に着目して解明することが目的である。平成22年度の培養NPCを用いた研究からWnt5a-Ror2シグナルはNPCの維持に働くことでNPCからの持続的なニューロン産生に寄与していることを明らかにした。NPCは発生初期においてニューロンを産生し、発生後期ではアストロサイトへと分化することが知られている。そこで培養NPCにおけるRor2の発現抑制によるアストロサイト産生への影響を解析したところ、アストロサイトの産生が増加することが示された。したがって、Wnt5a-Ror2シグナルはNPCの未分化な状態を維持することでアストロサイトへの分化を抑制していると考えられた。さらにin utero electroporation法を用いて胎生期のマウス大脳皮質NPCにおけるRor2の発現抑制または強制発現を行うことにより、脳室帯に存在するNPCの割合がそれぞれ減少または増加することを見出した。一方で、Wnt5a-Ror2シグナルは平面内細胞極性(PCP)の制御など細胞の極性化に重要な役割を果たすことが知られている。我々は、PCP制御因子として働くDishevelled2(Dvl2)がWnt5a-Ror2シグナルにおいても制御されることを見出した。さらにDvl2の発現を上述の方法により抑制した場合においても脳室帯に存在するNPCの割合が減少したことから、Wnt5a-Ror2シグナルはDvl2を介してNPCの未分化性の維持を制御していることが示された。本研究成果は、NPCの分化制御機構の解明およびニューロン分化期に続くNPCからのグリア産生制御機構の解明にも貢献するものであり、大脳皮質において多様なニューロンが産生される仕組みの理解に繋がるものである。
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