研究課題
システイン生合成経路の酵素で、硫化水素産生酵素でもあるCystathionineβ-synthase (CBS)とCystathionine γ-lyase (CTH)の欠損は、前者(ホモシスチン尿症)が重篤な症状であるのに対し、後者(シスタチオニン尿症)は顕著な臨床症状はない。本課題では両酵素の遺伝子欠損マウスを用い、両酵素が発現する腎近位尿細管での役割を探る。前年度までの計画により、各酵素の欠損マウスにおけるアミノ酸排泄異常が示され、CTH欠損マウスでは余剰硫黄成分がシスタチオニンとして効率良く排泄されるのに対し、CBS欠損マウスではメチオニンが体内蓄積に蓄積するが、硫黄排泄の90%を占める尿中への硫酸排泄は正常であることが示されている。CE-TOF-MS、クーロアレイ、GCを用いた低分子硫黄代謝物のメタボローム解析の結果、高メチオニン食投与マウスではトランスアミレーション経路が活性化し、トランススルフレーション経路による硫黄代謝が代償されることを示した(発表論文2)。トランスアミレーション経路では毒性のあるメチルメルカプタンが産生され、CBS欠損のメチオニン蓄積による病態に関与すると考えられる。各欠損マウスのGSH、硫化水素レベルは肝臓では著減するが、腎臓では野生型と同等に維持されており、腎臓虚血再灌流による尿細管壊死の観察でも顕著な差を見出すことできなかったが、新たにCTH欠損妊娠メスに蛋白尿と高血圧を同時に発症する妊娠高血圧腎症様の病態が見出され、さらにGCによる硫化水素計測では、腎臓は主要臓器で最も硫化水素レベルが高いことから、未だ未知の腎臓における硫化水素産生の生理的役割に注目した。血管拡張因子である硫化水素の腎内分布を解明するため、腎臓組織切片をスタンプした銀蒸着板をTime of flight secondary ion mass spectrometry(TOF-SIMS)により表面解析することで、銀との反応性が高い硫化水素やハロゲン分子をイメージングする手法を新たに構成し、腎臓皮質-髄質外帯外層の硫化水素レベルが高いことを示した(発表論文1)。
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