研究概要 |
腸管上皮組織は優れた幹細胞システムによって維持された臓器であり、小腸では陰窩底部に存在する幹細胞が絶えず絨毛部へ腸管上皮細胞を供給することが知られている。近年の研究の進展により腸管上皮組織は幹細胞、癌幹細胞研究のモデル系として注目されているが本研究では癌抑制miRNAの代表例であるLet-7に着目し、miRNAの発現制御を軸に腸管上皮幹細胞維持から腫瘍の発生までの分子機構を解明することを目的とした。 その結果、小腸上皮組織ではLet-7抑制分子であるLin28が陰窩底部に特異的に発現しLet-7の発現を抑制していることを明らかになった。またLet-7-GFPモニタリング遺伝子組換えマウスの解析から陰窩底部ではpri-Let-7のプロセシングが抑制されていることが示唆された。この発現の意義を明らかにするべくin vitro, in vivoでの解析を進めてきた結果、興味深いことにラット小腸部由来IEC-6細胞株におけるLin28Aの過剰発現により、細胞増殖、遊走能の亢進が確認され、接触阻害能が低下することが明らかになった。またLin28A過剰発現細胞では標的分子であるlet-7の発現が低下しており、さらに下流のLet-7標的であるc-mycの発現が強く誘導されていた。また一方、腸管上皮細胞特異的プロモーター制御下でLin28Aを過剰発現する遺伝子改変マウスの作成を進めた結果、一部の系統において小腸腺癌の形成が認められたことから、その解析を進めている。 以上の結果よりマウス小腸組織では陰窩底部位特異的にLin28が発現しておりLet-7のプロセシングを抑制することでc-mycの発現を増強しており、腸管上皮幹細胞の増殖、発癌過程におけるその悪性化に寄与している可能性が考えられる。
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