研究概要 |
運動時に交感神経系を反射性に刺激する活動筋反射と呼ばれるメカニズムは,活動骨格筋中の機械的・化学的刺激が筋求心性神経を刺激することで惹起する.心不全では活動筋反射が過剰になるが,そのメカニズムは解明されていない.心不全などの循環器疾患ではレニン・アンジオテンシン系が亢進する.アンジオテンシンII(AngII)はそのタイプ1受容体を刺激することでNADPH酸化酵素を活性化させ酸化ストレスをもたらすことが血管内皮細胞や神経細胞で報告されている.そこで本研究では,AngIIの増加が骨格筋中に酸化ストレスをもたらし,それが活動筋反射を過剰にするとの仮説を検証した.アルゼット浸透圧ポンプを用いてラットに2週間継続して,AngIIを皮下投与した.その結果,血圧レベルは有意に上昇した(高血圧状態).高血圧ラットの活動筋反射応答(後肢骨格筋の収縮に対する反射性腎交感神経・動脈圧応答)は,Sham対照群の応答よりも有意に大きかった.この過剰な活動筋反射応答はスーパーオキシドディスムターゼの模擬化合物であるテンポールを後肢循環中に動脈内投与することで抑制された.またRT-PCR実験から,NADPH酸化酵素の一つであるgp91phoxのmRNAはAngIIの投与によって骨格筋中で増加することが示された.これらの結果は,AngIIの投与が骨格筋中でNADPH酸化酵素をupregulateして酸化ストレスをもたらし,それが筋求心性神経の感受性を高めて活動筋反射を過剰にすることを示唆する.この機序は,心不全や高血圧などレニン・アンジオテンシン系が亢進する循環器疾患での活動筋反射を過剰にするメカニズムであると考えられる.AngIIによって骨格筋中の活性酸素およびgp91phoxタンパク質が増加したかについての直接証拠を得ることが次年度の課題として残った.
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