通常の神経細胞がグルコースにより正の制御を受けるのとは反対に、摂食亢進に中心的役割を担う視床下部弓状核Neuropeptide Y(NPY)ニューロンは低グルコースを感知し活動が亢進する。この時NPYニューロンが"何をエネルギー源に利用して活動を維持しているか?"という問いは細胞生物学的にも摂食調節理解のためにも検討する意義がある課題である。今年度は、NPYプロモーターの下流にhrGFPを発現する遺伝子組換えマウスNPY-hrGFPマウスを導入し、NPYニューロンへの影響を直接蛍光観察により可視化できる神経細胞の培養法を検討した。また、プラスミドベクターとAmaxa Nucleofectorを用いた遺伝子導入に関しても検討した。妊娠17日目の母マウスから胎児の脳を取出して神経細胞を単離し、NeurobasalにB27サプリメントを加えた培養液を用いて培養した。その結果、培養開始4日間程度から十分な神経突起を延ばし、正常な状態で培養可能であることが明らかとなった。細胞外からのグルコースの取り込みやそこから作り出されるエネルギーがNPYニューロンの機能や形態に影響を与えるか確かめるため、解糖系酵素阻害剤である無機ヒ素を培養液中に添付したところ、2μM程度の濃度の添付で細胞死誘導や神経突起伸長抑制などの影響が見られることが確認され、神経活動が低下していることが推測された。 また、この時のAMPA型グルタミン酸受容体の発現をウエスタンブロットにより検討したところ、特定のサブタイプの発現が低下していたことから、神経突起伸長の抑制はグルタミン酸受容体発現抑制と関連していると考えられた。 一方、0.5μM程度の低濃度の添付により、逆に細胞死が抑制されるといった現象も観察できた。さらに現在、乳酸輸送体であるMCTIを遺伝子導入し、上記の細胞死や突起伸長における影響がどのように変化するかに関して検討を行っている。
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