本研究では経産ラットおよび未経産ラットを用いて、妊娠-出産-子育て後にみられる学習、記憶行動の変化のメカニズムの解明を、先行研究によるCA1およびDGの、産後のERα免疫陽性細胞数の増加およびエストロジェンのERαを介した海馬での神経発達およびシナプスの形成への関与に着目して行動学的、薬理学的および形態学的手法により検討を行う。まず本年度は、Y迷路にて(学習、記憶に関する行動解析でも海馬機能を評価する。)を用いて妊娠、出産による学習、記憶行動の変化を明らかにした。発情前期の経産ラットでは、同発情周期の未経産ラットと比較して有意に、学習、記憶行動における成績が良好であった。現在、水迷路テストを検討している。また、神経系の可塑的変化としてLTPが知られており、LTP誘導刺激によりAMPA受容体がシナプスに移行することがLTP成立の分子メカニズムの一つであることが明らかになってきた(Malinow et al.2003)。 そこで、出産経験による行動への影響が、AMPA受容体のサブユニットの構成に関与しているか否かを明らかにし、機能的解析を行っている。出産経験の有無によって、海馬急性スライスにおける、AMPA受容体のサブユニットの構成に違いがみられる傾向である。現在、ラット数を増やし、詳細を検討している。 女性の人生の大きな分岐点となる妊娠、出産は、身体の大きな変化を伴うと同時に、後の子育てを合目的に行うための変化である可能性が示唆できる。子育てを合目的に行うことが、外的内的要因によってできなくなることで、子育ての異常である、虐待ネグレクトなどの問題が生じてくる。これら問題を本研究では神経科学の視点から、解決していく突破口となる可能性があり、社会的にも大変重要で意義のある研究結果である。
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