研究概要 |
本研究は,ストレスによる卵巣機能障害における卵巣交感神経の役割を,ラットを用いて解明することを目的とする.ラット卵巣には2種類の交感神経(上卵巣神経:SONと卵巣動脈神経:OPN)が分布する.これまでに研究代表者は,SONは卵巣の血流とエストラジオール分泌を各々独立に低下させること,OPNは血流のみを低下させることを報告した.本研究課題において昨年度には,身体的ストレス刺激(皮膚侵害刺激)がSONの活動亢進を介して,卵巣エストラジオール分泌を抑制することを明らかにした.今年度はまず(1)SON刺激による卵巣エストラジオール分泌低下の機序を調べた.SONが前駆体テストステロンからエストラジオールへの変換反応を抑制する可能性に着目した.卵巣からのテストステロン分泌速度は,安静時において平均22±5pg/minであり,SON電気刺激中に約26%減少した.SON刺激中のテストステロン分泌抑制の度合いは,エストラジオール分泌抑制の度合いの約1/2であることから,SON刺激中にはテストステロンからエストラジオールへの変換反応が抑制されると考えられる.さらに,SON刺激はテストステロン分泌をも抑制することが明らかとなった.SON刺激中には,卵巣内の一連の性ホルモン合成過程が抑制される可能性が考えられる.今年度は引き続き(2)ストレス時の交感神経亢進が卵巣ホルモン分泌低下に続いて,卵巣の卵胞や黄体組織の形態に及ぼす影響を調べた.ラットへのカイニン酸全身投与が心臓交感神経活動を異常に亢進させるという先行報告に着目し,同様の手法を用いた.麻酔下ラットにおいてOPN遠心性活動はカイニン酸全身投与により著しく亢進した.カイニン酸投与群(約4か月後)の卵巣組織では対照群と比較して,嚢胞性卵胞数が多く,黄体数が少なかった.卵巣交感神経活動の慢性的亢進が卵巣組織の異常をもたらした可能性が考えられる.
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