Blebbistatinのミオシンへの生化学(化学エネルギー)的阻害効果は既に検証されているため、分子形態的効果を検討した。活性化したリン酸化ミオシン分子は二つの頭部ドメインが開いた状態であるが、Blebbistatinの効果で二つの頭部ドメインが閉じて大きなひとつの塊(グロビュラードメイン)を形成することが解明された。ミオシン頭部ドメインが一つの塊になることが結果的にアクトミオシン相互作用を阻害すると推測されるが分子構造学的な証明がさらに必要とされる結果となった。Blebbistatinが平滑筋細胞内においてどのような挙動を示すのかを検討するため、Gba-SM4(平滑筋培養細胞)でのアクチン細胞骨格への影響を調べることにした。GFP-β(beta)アクチン発現細胞を作製し、Blebbistatinを作用させて共焦点レーザー顕微鏡でアクチン細胞骨格の観察を行なった。Blebbistatinの効果で細胞骨格として観察されるべきアクチンストレスファイバーは短く断片化され、細胞収縮が阻害されていると推測される樹状化細胞へと変容していった。SPC(Sphingosyl phosphorylcholine)を前処理した細胞にBebbistatinを作用させた結果、攣縮効果として確認されたマグナポディアが減少し、収縮阻害された細胞骨格へと遷移していった。つぎに、ラット盲腸紐の平滑筋組織において、同様にBlebbistatinの収縮阻害もしくはSPCの攣縮効果をトランスジューサーによって、等張性収縮力を測定し、さらに、SPC前処理後Blebbistatinを作用させてSPC攣縮効果阻害を検証した。SPC単独効果ではリン酸化を伴わない攣縮が確認され、Blebbistatin単独効果では収縮力の阻害が確認された。SPC前処理後のBlebbistatin効果ではSPCで誘発される攣縮がBlebbistatinで消失した。収縮力測定に用いた平滑筋組織試料を電子顕微鏡で観察した結果、SPC攣縮の条件下で平滑筋組織内ではアクチン線維の密集化とミオシンの線維化が確認され、本来のカルシウム収縮よりも線維化の密度が高かった。SPC前処理後のBlebbistatinを作用させた条件では、Blebbistatinの効果によってアクチン線維の配向は乱れ、ミオシンの線維化も消失した。薬理学的だけでなく生理学的・形態学的にもSPCの攣縮効果をBlebbistatinによって解消することが証明された。
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