近年、内向き整流性カリウムチャネルに属するKir4.1チャネルのポア領域と結合し機能阻害する薬物の構造活性相関の研究が進められてきた。研究代表者は、これまでに得た複数の薬物の構造と作用のデータセットから阻害作用に関連するファーマコフォアモデルを作成している。本研究では、ファーマコフォアの類似性に基づいた薬理作用の予測とその実証研究を実施する。この方法論により、特にカリウムチャネル機能を制御する生理活性物質を新たに同定することを目的としている。 本年度の研究開始後直ちに、Kir4.1阻害薬のファーマコフォアモデルを再利用し、薬物構造情報のデータベース(DB)からインシリコ探索によって新規阻害物質の同定が可能かまず検討した。結果として、多数のKirチャネル阻害物質が新たに見出されてきた。一方、構造的にはKirチャネルを阻害する可能性が示唆されるものの、実証研究で作用が認められなかった薬物も探索結果に含まれた。この研究から薬物構造と作用の関連に対する理解が更に進み、またファーマコフォアモデルの精緻化やインシリコ探索の手法などに関する情報を得ることが出来た。これらの結果は関連分野の学会で報告し、論文の投稿を準備している。 基盤となる薬物作用の解析を実施した後に、インシリコ探索する対象を生体内物質に移した。Kir4.1チャネルポア阻害薬のファーマコフォアを用い、細胞内代謝物の構造情報の収容されたDBから薬物と類似のファーマコフォアを持つと見られる生体内物質をインシリコ探索した。選び出された候補物質は膜透過性の低さを考慮し、パッチクランプ法のインサイドアウトパッチ膜の細胞質側から投与するようにし、チャネルへの作用を解析した。系統的に解析する過程で、スフィンゴリン脂質のスフィンゴシンが細胞の内側からKir4.1チャネル機能を阻害することを新たに見出した。
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