緑内障は神経変性疾患の一つであり、日本における中途失明原因疾患の第1位、世界の第2位である。本疾患に対する危険因子は加齢、高眼圧、糖尿病などがあるが、本質的な発症原因は不明である。現在、緑内障に対する治療効果が証明されている唯一の治療法は眼圧下降であるが、治療効果が限定的なため、新たな治療法や治療薬の開発が切望されている。 本研究では、研究代表者が以前の研究で明らかにしたグリア細胞由来アポリポ蛋白E(アポE)含有リポ蛋白によるリポタンパク受容体(low density lipoprotein receptor-related protein 1 : LRP1)を介した神経保護機構の詳細な解析を行った。実験には視神経を構成する網膜神経節細胞の初代培養細胞を使用した。神経細胞培養液に、栄養因子欠乏または興奮性アミノ酸、炎症性サイトカイン障害を誘導し、24時間後のアポトーシス細胞の割合を核染色により計測した。栄養因子欠乏および興奮性アミノ酸はアポトーシスを誘導したが、炎症性サイトカインではアポトーシスが誘導されなかった。アポE含有リポ蛋白は栄養因子欠乏および興奮性アミノ酸神経障害に対し、強力な神経保護効果を発揮した。この神経保護効果にはアポEが脂質と結合することが必要であり、アポE含有リポ蛋白による神経保護にはLRP1を介したカルシニューリンやグリコーゲンシンターゼキナーゼ3βの不活性化が重要であることが示された。 本研究により、緑内障治療薬の開発に繋がると考えられる視神経保護機構の一端が明らかとなった。今後、さらに本研究を発展させることで、緑内障の治療法開発に寄与できる重要な成果であると考えている。
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