研究概要 |
本研究の目的は、インスリン分泌細胞として知られる膵B細胞に対して、ガス性メッセンジャー硫化水素が持つ保護作用の特性を検討することと、その分子的な作用機序を解明することである。 以前私たちは、高濃度グルコースにより誘発される膵B細胞死を硫化水素が抑制することを報告した(Kaneko Y, et al., FEBS Letters, 2009)。高血糖にともなう膵B細胞障害は、酸化ストレス、小胞体ストレス、サイトカイン産生の増加など複数の要因による。そこで、硫化水素がどのような膵B細胞障害に対して保護的に働くのかを調べた。硫化水素ドナーNaHSは、遊離脂肪酸(パルミチン酸)、細胞障害性サイトカイン(TNF-α、IFN-γ、IL-1βの混液)、過酸化水素で誘発した細胞死を抑制したが、thapsigargin、tunicamycinによる細胞死には影響なかった。つまり、硫化水素は、小胞体ストレスではなく、酸化ストレスに対して保護作用を持つことがわかった。マウス膵ランゲルハンス氏島に対するTUNEL染色では、サイトカイン誘発細胞死において、NaHSによる膵B細胞選択的な抑制が見られた。さらに、細胞保護への関与が知られているAktシグナリングに対する硫化水素の影響を調べた。NaHSは、サイトカイン処理細胞のAktリン酸化を増加させたが、thapsigargin処理細胞には影響がなかった。以上、昨年度に得られた硫化水素による膵B細胞保護作用特性の研究成果は、すでに学術論文として報告済みである(Taniguchi S, et al., Br.J.Pharmacol., 2011)。今後、分子レベルでの膵B細胞死抑制機序の解明を進める。 本研究は、糖尿病状態における膵B細胞死の制御機構を理解する上で非常に有用であり、また保護作用に関わる分子をターゲットした治療薬開発へとつながる可能性がある。
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