研究概要 |
本研究の目的は、膵B細胞に対してガス性メッセンジャーである硫化水素が持つ保護作用の特性を検討することと、その分子的な作用機序を解明することである。現在までに私たちは、膵B細胞の主要な硫化水素産生酵素cystathionine-γ-lyase(CSE)が高濃度グルエースにより発現誘導を受けること(Kaneko et al.,FEBS Lett.,2009)、産生された硫化水素が糖尿病状態において生じる酸化ストレスを抑制して膵B細胞を保護することを報告した(Taniguchi et al.,Br.J.Pharmacol.,2011)。今年度の研究では、硫化水素のCSEを介した誘導性産生調節と膵B細胞保護作用の関係、さらに、高脂肪食負荷した『CSE遺伝子欠損マウスにおける耐糖能異常を明らかにした。阻害薬を用いた薬理学的実験および遺伝子ノックダウン、プロモーターアッセイなどの分子細胞生物学的実験から、グルコースによる膵B細胞のCSE発現誘導には、Ca^<2+>/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII、MAPキナーゼカスケード(MEK-ERK)、転写因子Sp1、Elk1が必要であることがわかった。つまり、高濃度グルコースで上記分子を介して発現誘導されたCSEにより内因性に生じる硫化水素が、膵B細胞を保護することが明らかになった。さらに、CSE遺伝子欠損マウスは、通常の飼育状態では高血糖を呈しないが、加齢と高脂肪食負荷により、耐糖能異常となることがわかった。若齢における高脂肪食負荷では耐糖能異常になりにくかった。したがって、このマウスは、遺伝的背景に加齢、食生活といった環境要因が加わって発症するヒトの2型糖尿病のモデルとして、非常に有用であると思われた。以上の結果から、膵B細胞におけるCSEを介した誘導性硫化水素産生の生理的意義の解明につながる成果をあげたと考える。
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