研究概要 |
昨年度に引き続き,PACAPによって誘導される神経突起伸展作用におけるミトコンドリアの寄与を解明することを目的として実験を遂行した.これまでの研究より,PACAPはNeuro2a細胞においてミトコンドリアの活性化とともに神経突起の伸長を促進することを報告した.本年度は,これらの結果が海馬由来の初代培養神経細胞においても再現され,MAP2陽性の樹状突起が著明に伸長していることを明らかにした.さらに,いずれの細胞においても,神経突起の形成促進作用とミトコンドリアの活性化はプロテインキナーゼAの阻害剤であるH89およびERK阻害剤であるPD98059によって阻害された.一方,Pgc1αはミトコンドリア活性のマスターレギュレーターとしての機能が報告されており,研究代表者の昨年度までの研究より,PACAPの暴露によってPgc1αとその下流分子であるシトクロムCとシトクロムC酸化酵素サブユニット4の発現が増強される結果を得ている事から,Pgc1α特異的なsiRNAで同タンパク質のノックダウンを行った細胞における検討を行った.その結果,Pgc1αのノックダウンにより,PACAPによって誘導されたミトコンドリアの活性化および神経突起の形成促進作用ともに有意に抑制された.また,雄性成熟マウスにPACAPを6日間投与した後の,海馬におけるMAP2の発現が有意に増強することを見出した.以上の結果より,PACAPによる神経突起の形成促進作用はプロテインキナーゼA,ERKとPgc1αを介したミトコンドリアの活性化を介している可能性が示唆された.本研究は,PACAPによる神経細胞の分化メカニズムの解明と神経細胞の成長における普遍的なミトコンドリアの役割の理解に寄与した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究代表者の研究課題は,Pgc1α,Fos,網羅的解析の大きく分けて3種類の課題から成り立っている.Pgc1αに関する課題に関しては,概ね結論に到達し,国際学会での発表と論文の投稿を済ませ,ほぼ完結したと考えている.Fosの研究に関しては現在,材料の作成を終えプレリミナリーなデータがとれてきている段階である.網羅的解析に関しては,解析中であるが未だ有効な候補分子は取れていない.
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今後の研究の推進方策 |
Pgc1αの研究に関しては概ね完結しており,今後はミトコンドリア内に存在するFosの機能解析を重点的に行なっていく.現在のところ,Fosの研究に関しての重大な問題点は無いため,当初の研究計画に従い遂行する予定である.網羅的解析に関しては,当初の計画以外にも2次元電気泳動法など異なった解析法も試し,目的の分子を単離する必要があると考えている.
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