cFosは神経活動のマーカーとして知られる転写制御因子で,核において様々なタンパク質の発現を制御している.しかしながら,2002年の報告では,カイニン酸を投与したマウスの海馬において,核のみならず,ミトコンドリアにもその発現が観察されることが明らかになっているが,その機能については明らかではない.そこで,このミトコンドリアでのcFosの機能について,詳細に検討した. ミトコンドリアでのcFosの機能を神経系の細胞で詳細に解析するためにNeuro2a細胞を用いて実験を行った.まず,細胞の活性化にともなうミトコンドリア内cFosの発現を観察するために,インビトロ虚血を負荷した.すると,インビトロ虚血の1時間後において,核のみならずミトコンドリアでもcFosの発現が有意に増強することが明らかとなった.続いて,シトクロムC酸化酵素サブユニット8のミトコンドリア移行シグナルを融合させたcFosを発現させるためのプラスミドベクターを作成した.これらのプラスミドを細胞に導入すると,発現したcFosは選択的にミトコンドリアに集積する事が明らかとなった.ミトコンドリア移行性のcFosを発現させた細胞は,コントロールと比較して細胞の増殖能が1.5倍増えたが,インビトロ虚血を負荷すると,ミトコンドリアにcFosを発現させた細胞はより脆弱になることが明らかとなった. 本研究の結果より,ミトコンドリア内のcFosは増殖能と細胞死に影響をあたえることが明らかとなった.過去の報告より,cFosはミトコンドリアDNAと結合できることが報告されており,ミトコンドリア内での転写制御に影響をあたえる可能性がある.ミトコンドリアDNAには13個の電子伝達系のタンパク質がコードされていることから,今後はこれらの分子の発現や細胞の酸素消費量を測定する.
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